不動産の分割内容と優先順位
不動産の具体的な分割方法としては、現物分割、代償分割、換価分割、共有にする方法の4種類があります。
そこで、今回は、これら4種類の遺産分割の具体的な内容と優先順位についてご説明いたします。
現物分割とは?
現物分割とは、文字通り、相続財産の所有権をそのまま相続人のいずれか1人に取得させる分割方法のことです。
遺産の分割方法の原則形態は、この現物分割となります。なぜなら、遺産は被相続人の死亡によって相続人の共有物となりますが、民法258条2項は共有物の分割方法について現物分割を原則としているからです。
したがって、相続財産に複数の不動産があるときは、まずは相続人にこれら不動産を個別的に割り当てる分割方法をめざすことになります。
代償分割とは?
代償分割とは、相続人の1人ないし数人に特定の相続財産を取得させる代わりに、他の相続人に対して金銭債務(代償金)を負担させるという分割方法のことです。
遺産分割の方法は現物分割が原則ですから、代償分割は特別の事由があると認められるときに行われることになります(家事事件手続法195条)。
特別の事由があると認められるときとは、①現物分割が不可能なとき、②現物分割が可能であるものの現物分割すると経済的価値を著しく損なうとき、③現物分割が可能であり、現物分割によって経済的価値を著しく損なう事情もないものの、特定の相続人の利用を保護する必要があるとき、④これらの事情がなくても、代償分割をすることに全ての相続人の異議がないときです。
まず、①現物分割が不可能なときとは、例えば、相続財産が1棟の建物であるときなどです。このようなとき、相続人間で話し合いがつかなければ、最終的には裁判所が審判で決めることになります。相続人の中に保護すべき者がいればその相続人に優先して取得させることもできます。しかし、そのような事情がないときは、審判によって代償分割ないし換価分割が命じられることになります。
また、②現物分割が可能であるものの現物分割してしまうと経済的価値を著しく損なうようなときとは、例えば、対象財産が狭い土地であるときなどです。ただし、最優先されるべきは共同相続人間の公平ですから、対象財産の経済的価値を著しく損なうことになったとしても、現物分割することによって相続人間の公平を図ることができるのであれば、原則どおり現物分割が選択されることもあります。
そして、③現物分割が可能であり、現物分割によって経済的価値を著しく損なう事情もないものの、特定の相続人の利用を保護する必要があるときとは、被相続人から事業承継している相続人がおり、対象財産が継承した事業にとって不可欠であるときなどです。
しかし、これら代償分割を行うべき特別の事由があると認められるときであったとしても、相続人に支払能力がなければ代償分割は選択されません。ただし、他の相続人が、支払能力がなくても構わないとの意思表明をしたときは、代償分割が選択されることもあります。
また、代償分割によって対象財産を取得した相続人は、他の相続人に対し、原則として直ちに代償金を支払わなければなりません。なお、遺産分割審判では代償金の支払猶予や分割払いを命じることができると解釈されていますが、大抵のケースでは、代償金の支払を受ける相続人の意向を事前に確認し、その意向を大幅に無視するような内容の審判はなされません。
換価分割とは?
換価分割とは、相続人の1人に対象財産の任意売却を命じ、あるいは競売によって対象財産をお金に換え、そのお金を各相続人に取得させるという分割方法のことです。なお、任意売却による換価は、反対する相続人がいるときには選択ですることはできません。
裁判所が換価分割の必要性があると判断したときは、事前に相続人の意向確認を行います。相続人の全員が任意売却することに同意したときは、相続人を換価人に選任し、換価人に対し遺産の任意売却を命じます。また、相続人の全員が換価分割には同意するものの、その一部に任意売却に反対する者がいるときは、通常は審判によって競売が命じられることになるでしょう。
相続人の全部または一部が換価分割に反対していたとしても、裁判所は、必要があると認めるときは競売による換価分割を命じることができます。相続人の意向を無視して換価分割が命じられるケースとは、例えば、①そのままでは現物分割をすることができず、代償金の支払能力がある相続人も存在しないため、遺産全部または一部をお金に換えて相続人に分配するしかないとき、②審判まで待ったのでは価値が下がるか、審判まで待たずに換価したほうがより高値で換価できるとき、③時間の経過によって品質が劣化したり、保管費用(倉庫代等)が不相当に高額になったりするときなどです。
共有にする方法とは?
共有にする方法とは、遺産の全部または一部を相続人全員の共有取得にする分割方法のことです。
遺産分割審判をする裁判所にとっては、最も簡便な方法といえます。特に相続財産が不動産であれば、登記名義を共有名義に変更するだけのことです。
しかし、相続人にとっては、相続法上の遺産共有状態が物権法上の共有状態になっただけのことであり、共有状態を解消したければ改めて共有物分割訴訟を提起しなければならないという大きなデメリットがあります。
そのため、裁判所としても最後の手段と考える傾向があり、共有にする方法を選択した家庭裁判所の審判を高等裁判所が取り消したケースも存在します。
困ったら弁護士にご相談を
遺産分割の原則は現物分割です。しかし、全ての相続人が全ての相続財産をきれいに分配できるケースは滅多にありません。そのため、現物分割を最優先としつつも、第2に代償分割、第3に換価分割が検討され、これらによっても適切に分割することができないときに共有にする方法が選択されることになります。
誰がどの財産を取得するか、あるいはどこまでを現物分割し、残りのどれを代償分割ないし換価分割するのが得かについては、法律の専門家である弁護士の助言を求めた上で判断したほうがよいでしょう。当事務所の初回の法律相談料は無料ですので、お困りのときは当事務所にご連絡ください。