遺産分割協議書の役割と作成時の注意点

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果を記載し、全ての法定相続人が署名捺印した文書のことです。今回は、遺産分割協議書の役割と作成時の注意点についてご説明いたします。

遺産分割協議とは?

被相続人が遺言を残さずに死亡したとき、全ての法定相続人が参加した遺産分割協議を経なければ、被相続人の財産を相続人が相続することはできません。
また、被相続人が法定相続人の一部にだけ財産を相続させる旨の有効な遺言を作成していたときでも、全ての法定相続人が参加した遺産分割協議が成立すれば、遺言よりも遺産分割協議のほうが優先されます。そのため、各相続人は、遺言を無視して被相続人の財産を相続することができます。

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書とは、遺産分割協議が成立した後、それを後日の証拠にするため、遺産分割協議の内容を書面にし、相続人全員が署名捺印したものです。
遺産分割協議は、全員が合意すれば成立します。しかし、遺産分割協議書を作成しておかないと、遺産分割協議の内容が不明確になったり、相続人の中で気が変わって「遺産分割協議は成立していない」と言い出す者が出たりする可能性があります。また、被相続人名義の不動産の登記名義を変更する際は、法務局に対し、遺産分割協議書を提出する必要があるなど、相続手続において遺産分割協議書が必要となる場面があります。そのため、通常は、遺産分割協議が成立した時点でその内容を書面にし、全員が署名し実印を押捺した上で、全相続人の印鑑証明書と一緒に保管しておきます。

署名押印できない相続人がいるとき

相続人の一部が遠方にいたり、行方不明だったりして、遺産分割協議書に署名押印することが困難なときはどうしたらよいのでしょうか。
まず、相続人が日本国内にいるときは、電話や手紙等で遠隔地の相続人と協議を重ね、遺産分割協議が成立したときは、遠隔地の相続人に対して遺産分割協議書を郵送して署名捺印してもらい、印鑑証明書と一緒に返送してもらうことになります。
しかし、相続人の一部が海外にいるときは、日本にいたときの印鑑登録は利用できません。そこで、在外領事館で印鑑登録をして印鑑証明書を発行してもらうか、実印ではなく署名をし、在外領事館の署名証明書発行してもらうことになります。その上で、郵送された遺産分割協議書に署名捺印ないし署名し、印鑑証明書ないし署名証明書と一緒に返送することになります。
ただし、海外にいる相続人が日本国籍を持たないときは在外領事館の証明制度を利用することができないため、現地国の公証人の署名証明書を取得するなどして対応することになります。
問題は、相続人の一部の所在が判明しなかったとき(行方不明のとき)です。相続人の一部が行方不明のときは、家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任申立てをし、選任された不在者財産管理人を交えて遺産分割協議をすることになります。
ただし、不在者財産管理人には遺産分割協議を成立させる権限がないことから、遺産分割協議の成立前に不在者財産管理人を通じて家庭裁判所の許可を得ておく必要があります。家庭裁判所は、原則として、行方不明の相続人に不利益な遺産分割協議案を許可しませんので、遺産分割協議の内容は、行方不明の相続人の法定相続分を侵害しないものでなければなりません。

相続人確認条項について

遺産分割協議書を作成する際、相続人を確認する条項を入れておくことがあります。
戸籍の記載と実際の相続人の範囲が一致している場合も一致していない場合も、相続人の確認条項を遺産分割協議書に入れることに法律上の意味はありません。
戸籍の記載と実際の相続人の範囲が一致していないとき、すなわち、認知、認知無効、婚姻取消し、婚姻無効、離婚取消し、離婚無効、縁組取消し、縁組無効、離縁取消し、離縁無効、嫡出否認、親子関係存在、親子関係不存在などは、家庭裁判所の審判等によらなければ法律上の効力は発生しません。そのため、遺産分割協議書において、戸籍上の相続人ではない者を相続人であるとして遺産分割協議を成立させたとしても、相続関係を終局的に解決することができず、後日の紛争を招くおそれがあります。そのため、真実の相続人と戸籍上の相続人が一致しないときは、遺産分割協議を成立させる前に問題となっている相続人の身分関係を確定しておく必要があります。
これに対し、戸籍の記載と実際の相続人が一致しているときは、遺産分割協議書に相続人確認条項を入れたとしても法律的には何の意味もありません。とはいえ、遺産分割協議書の成立に至った参加者を明確にしておくという意味はありますので、相続人確認条項を遺産の確認条項とともに遺産分割協議書に入れることも多くあります。

迷ったら弁護士に相談を

相続人全員が署名捺印した遺産分割協議書には、遺産分割に関する紛争を終局的に解決する強い効力が認められます。また、その内容が法律的に間違っていたり十分に特定されていなかったりすると、せっかく作成した遺産分割協議書が有効に機能しないこともあります。
そのため、その内容に少しでも不安な点があるときは、署名捺印する前に弁護士に相談するべきです。当事務所では初回30分の法律相談は無料とさせていただいておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。皆様からの法律相談のご予約のお電話をお待ちしております。