遺言執行者の役割

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

遺言を作成したときは、併せて遺言執行者を指定することを検討したほうがよいでしょう。そこで、今回は、遺言執行者の役割についてご説明いたします。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者は、遺言によって指定することができます。また、遺言によって指定の委託をすることもできますので、この場合は指定の委託を受けた者が遺言執行者を指定することになります。

いずれのケースでも、遺言者ないし遺言者から指定委託を受けた者が指定した遺言執行者候補者が遺言執行者となることを承諾すれば、その者が遺言執行者に就任することになります。遺言執行者候補者は、遺言執行者に就任するかどうかについては自分の意思で決めることができますが、遺言執行者に就任することを承諾してしまうと、もはや自分の意思では辞任することができません。辞任したいときは家庭裁判所に対して辞任の許可を求めることになりますが、家庭裁判所が辞任を許可するに際しては老齢・疾病・公務の多忙等の正当な理由がなければならないものとされています。これに対し、遺言執行者に関して遺言書で何らの指定がなされていないときは、家庭裁判所に対し、遺言執行者の選任審判の申立てをして、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことになります。なお、家庭裁判所が弁護士の中から遺言執行者を選任したときは、一定額の報酬を定めるのが通常です。

遺言執行者の権限

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有します。遺言の内容は、①何らの執行を要せずに遺言の効力発生と同時に実現されるもの、②相続人とであっても遺言執行者のどちらであっても執行できるもの、③相続人では執行することができず、遺言執行者でなければ執行することができないものの3種類に分けることができます。

「相続させる」旨の遺言は遺言執行を要しない

最高裁判所平成3年4月19日判決は、「相続させる」旨の遺言は特段の事情のない限り遺産分割方法の指定であり、その権利承継の効果は遺言の効力発生当時に物権的に発生するとの判断を示しました。したがって、「相続させる」旨の遺言によって不動産を相続した相続人は、被相続人の死亡の瞬間にその不動産の所有者になりますので、遺言執行を要せず、自己の名で所有権登記の移転登記手続を請求できることになります。

このように「相続させる」旨の遺言は、前項でした整理によれば「①何らの執行を要せずに遺言の効力発生と同時に実現されるもの」となります。同じ分類に含まれるものとしては、特別受益の持ち戻しの免除、遺産分割の禁止、未成年者の後見人の指定などがあります。これらは遺言執行が不要です。

遺言執行者が必要な場合とは?

遺言執行者が必要な場合とは、「③相続人では執行することができず、遺言執行者でなければ執行することができないもの」が遺言内容に含まれているときです。例えば、認知、推定相続人に廃除ないし排除の取消しなどは、相続人では執行することができず遺言執行者だけが執行できるものとなります。このとき、遺言で遺言執行者を指定しておかなければ、利害関係者は、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を求めなければならず、手間も時間もお金もかかってしまいます。例えば、ある女性と交際しており、その女性のおなかに胎児がいて遺言で認知した上で財産を相続させたいときなどは、遺言で遺言執行者を指定しておくべきです。また、「②相続人であっても遺言執行者であっても執行できるもの」であるときも、相続人の中に意見が異なる者が出ると面倒ですので、遺言で遺言執行者を指定しておくべきです。

弁護士を遺言執行者に指定しておくメリット

弁護士に依頼して遺言を作成するケースでは、その弁護士を遺言執行者に指定するケースもよく見受けられます。弁護士が遺言執行者に指定されることの最大のメリットは、遺言者の死後、弁護士がいわば遺言者の代理人のような立場で、遺言者の真意を実現すべく相続人間の意見を調整することができるという点です。遺言者の死後に相続財産をめぐって相続人が醜い争いをすることを避ける方法として、弁護士を遺言執行者に指定しておくことをご検討ください。

また、遺言執行者たる弁護士は、遺言執行者という地位を活用して、相続人と相続財産を速やかに調査したり、預金の払い戻しを受けたり、貸金庫を開閉したり、相続債務を弁済したり、使用貸借関係を解消したりすることができます。これらは相手方の営業時間等との関係で平日の昼間に行う必要がある場合が多いありますので、弁護士を遺言執行者に指定することで相続の前提となる事実関係を早期に確定することができます。

このように、遺言書で遺産施行者を指定し、しかも遺言執行者を弁護士にしておけば、相続手続がスムーズに進むばかりか、遺言者の死後、相続人が相続財産をめぐって争う可能性を減少させることにもつながります。当事務所では、初回の法律相談は無料とさせていただいております。遺言の作成や遺言執行者の就任についても承っておりますので、相続関係でお悩みの際には当事務所にご相談いただければ幸いです。