遺産分割協議の進め方

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

被相続人が遺言を作成せずに死亡したとき、被相続人の財産を相続するためには、遺産分割手続をすることが必要です。今回は遺産分割手続の中で最初に行うことになる遺産分割協議の進め方についてご説明いたします。

遺産分割手続の各段階

遺産分割協議とは、相続人全員が参加して、全ての相続財産について、誰が何を相続するのかについて話し合う手続のことです。被相続人が遺言を作成せずに死亡した場合、遺産分割協議を成立させなければ、各相続人は、被相続人名義の財産を相続することができません。預貯金は引き出すことができず、不動産の登記名義は変更することができず、相続財産は被相続人名義のまま凍結された状態がずっと続くことになります。
遺産分割協議が有効に成立するためには、①全ての法定相続人が参加した上で、②全ての法定相続人がその内容について異議なく同意することが必要です。
全ての法定相続人の参加を得られなかったり、全ての法定相続人が参加したものの、その中の1人でも反対する法定相続人がいたりしたときは、遺産分割協議は成立せず、法的手続(遺産分割調停や遺産分割審判)を申し立て、家庭裁判所による解決にゆだねることになります(家庭裁判所は、まずは調停という話し合いの手続による解決をめざしますが、相続人全員の合意が得られないときは審判に移行し、全ての相続財産を強制的に分配することになります)。

全ての法定相続人を確定する

遺産分割協議が有効に成立するためには、法定相続人が1人残らず参加することが必要です。そこで、まずは被相続人の出生から死亡するまでの全ての戸籍を集め、全ての法定相続人の氏名と住所を確定します。ここで漏れがあるとせっかく遺産分割協議を成立させても無効となるリスクがあるため、最寄りの法務局の「法定相続情報証明制度」を利用し、登記官の認証文言が付された法定相続情報一覧図を発行してもらうとよいでしょう。

全ての相続財産を確定する

遺産分割協議は、相続財産から一部の相続財産を切り離して成立させることができます。しかし、遺産分割協議の対象外となった相続財産は凍結されたままで相続することはできませんので、特別の理由がない限り、遺産分割協議は全ての相続財産を対象として行うべきです。そのため、全ての相続財産の内容及び金額を調査し、リストアップする必要があります。今回は、不動産と預貯金の調査方法について、簡単にご説明します。
まず、不動産についてですが、被相続人の最後の住所地と本籍地の市町村役場に行き、「名寄帳」を発行してもらってください。名寄帳とは、市町村役場が固定資産税を漏れなく徴収するため、名義人別に作成しているリストのことです。名寄帳には、名義人がその市町村内で所有している不動産が、全てリストアップされています。
つぎに、預貯金についてですが、まずは通帳を探してください。入出金履歴が漏れなく記帳されているかどうかを確認し、最終の記帳日が被相続人の死亡日より前であれば、通帳の記帳をしてください。ただし、通帳を記帳した際、一定期間の入出金履歴がまとめて記帳される場合があります。そのような場合際、まとめて記帳されてしまった期間に被相続人の死亡日が該当していると記帳しただけでは、他の相続人が通帳を確認したとき、被相続人の死亡日の残高がいくらかが一見して明らかではありません。そのような場合、金融機関の窓口で残高証明書を発行してもらう方法や被相続人名義の口座の取引履歴を発行してもらう方法によって、被相続人の死亡日の残高を確認することができます。
つぎに、通帳がある金融機関の支店の窓口に行き、「この通帳に記帳されている以外の取引があるかどうかを知りたいので、全ての本支店における全ての取引に関し、直近5年分の取引履歴を発行してください」と依頼してください。ここでは預貯金やローンなどを含む文字通り全ての取引について調査しなければなりません。直近5年分の取引履歴を入手する理由は、不自然な出金の有無を確認するためです(往々にして他の相続人が贈与を受けているケースがあります)。
なお、これらの手続をする際、法定相続情報一覧図があればそれを示すだけで済みますが、法定相続情報一覧図がなければ、全ての金融機関の支店窓口で被相続人と相続人の戸籍を示す必要があります。

遺産分割協議を実際に行う

全ての法定相続人と全ての相続財産を確定した後、全ての法定相続人に連絡し、遺産分割協議の日時を決めて全員で集まり、誰が何を相続するのかについて話し合うことになります。
なお、相続財産の評価額が相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)を上回るときは、被相続人の死後10か月以内に相続税を納めなければなりません。10か月以内に遺産分割協議が成立した場合は、遺産分割協議によって実際に相続した相続財産の評価額に基づいて相続税を納付すればよいのですが、10か月以内に遺産分割協議が成立しなければ、各相続人の相続税を法定相続分に応じて仮に計算して算出した相続税を仮納付した後、遺産分割協議の成立後に更正の請求を行って仮納付した相続税との過不足の調整を受けることになります。

他の相続人との話し合いが難しいときは弁護士に相談を

相続財産が現金や預貯金のみであれば、法定相続分に応じて各相続人に配分するだけですが、思い入れのある不動産や事業承継した会社の持ち分などがあるときなど、相続人同士の話し合いでは解決が困難であると思われるケースもあります。
このようなとき、弁護士に依頼すれば、弁護士が交渉窓口となって他の相続人と交渉してくれます。また、依頼時期が早ければ、相続人調査から依頼することもできます。
当事務所は、初回30分の法律相談料については無料とさせていただいております。相続関係でお悩みの方は、まずは当事務所で法律相談を受けていただき、依頼内容や弁護士費用について十分に納得した上で、当事務所にご依頼するかどうかをお決めいただければ幸いです。