大改正された相続法の概要とは?

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

2018年7月6日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立しました。今回の改正は、一部を除いて2019年7月1日から施行されます。

今回の大改正の経緯

今回の相続法の大改正は、平成25年9月4日、最高裁判所が非嫡出子(いわゆる婚外子)の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定(民法900条4号但書)を違憲であるとの決定をしたことがきっかけです。最高裁判所が違憲であると判断したことで、その瞬間から、以後、日本の全ての裁判所で民法900条4号但書が適用されることはなくなり、民法900条4号但書は死文化しました。死文化した法律は速やかに民法900条4号但書を民法典から削除する必要がありますが、他方で、婚外子の法定相続分が倍増する結果、配偶者の保護も同時に図るべきではないかとの考えが提唱され、今回の法改正に至ります。

配偶者の居住権を保護するための制度

今回の法改正では、配偶者の居住権を保護するため、2つの制度が新設されました。
1つめの制度は、配偶者の短期居住権です。短期居住権とは、配偶者が相続開始時に居住していた建物(自宅)が遺産の一つであるときは、遺産分割が終了するまでの間、配偶者が無償で自宅に居住することができるという権利のことです。なお、相続開始時から6か月以内に遺産分割が終了したときは、配偶者は相続開始時から6か月が経過するまで自宅に居住することができます。
結局のところ、配偶者は、相続開始時から6か月間は必ず自宅に無償で居住し続けることができ、6か月経過後も、遺産分割が成立するまでは自宅に無償で居住し続けることができることになります。
今回の短期居住権は、被相続人の生前の意思に関係なく、配偶者は、第三者等から短期居住権の消滅の申入れを受けた日から6か月が経過するまでは引き続き自宅に無償で居住し続けることができるというものです。
2つめの制度は、配偶者居住権の新設です。今回の配偶者居住権の新設によって、自宅の価値を配偶者居住権と配偶者居住権の負担付き所有権とに分けた上で、配偶者は配偶者居住権のみを取得し、配偶者居住権の負担付き所有権は他の相続人に取得させることで、配偶者は、配偶者居住権の負担付き所有権に相当する現金や預貯金を取得することができるようになります。

長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与や遺贈を保護するための制度

今回の法改正では、婚姻期間が20年以上である者(被相続人)が配偶者に対して居住用不動産(自宅の建物又は敷地)を遺贈ないし贈与したときは、遺産の先渡しをしたもの(特別受益)ではなく、遺産とは別枠で遺贈ないし贈与したものと推定すると規定されました。

相続された預貯金の遺産分割前の払戻しを認める制度

最高裁判所は、平成28年12月19日、それまでの判例を変更し、預貯金を相続財産とするとの新判断を示しました。これによって、各相続人は、遺産分割が成立するまでの間、自らの法定相続分について、預貯金を払い戻すことができなくなってしまいました。また、家事事件手続法200条2項の仮分割の仮処分の要件は非常に厳しく、葬儀費や相続債務の弁済、相続人の生活費のために必要であっても、通常は仮処分が認められないことから、とりわけ被相続人と同一生計であった配偶者が生活費に困窮するおそれがありました。
そこで、今回の法改正では、大きく2つの制度が新設されました。
1つめは、仮分割の仮処分の要件を緩和する条文を新設し、上記のケースであっても仮処分の対象とするというものです。
2つめは、預金のうち一定額に限るという条件付きではありますが、家庭裁判所の仮処分によらず、金融機関の窓口での払戻しを認めるというものです。
具体的には、「口座残高×法定相続分×3分の1」(ただし、同じ金融機関における上限額は150万円)までの払戻しが認められました。

相続開始後に他の相続人が相続財産を処分したとき

今回の法改正では、財産処分をした相続人を除いた全ての相続人の同意を条件として、処分された財産を相続財産に含めて遺産分割をすることが認められました。そのため、他の相続人は、民事訴訟を提起することなく、遺産分割手続(調停又は審判)の中で全てを解決することができるようになりました。

遺留分減殺請求権の効果の見直し

今回の法改正によって、遺留分減殺請求権を行使したときは、物権的効果ではなく、遺留分侵害額に相当する金銭の請求権が発生するものとされました。

相続人以外の親族の特別の寄与を考慮するための制度

これまでは、相続財産を取得できる者は相続人に限定され、相続人ではない者はどれだけの貢献をしたとしても相続財産の分配にあずかることはできませんでした。しかし、今回の法改正によって、相続人以外の親族が特別の寄与をしたとき、相続人に対して金銭の請求をすることができるようになりました。

自筆証書遺言の要式の緩和

これまで自筆証書遺言は、財産目録を含む全文を自筆で作成しなければなりませんでした。
しかし、今回の法改正によって、2019年1月13日以降は、財産目録をパソコンで作成したり、銀行通帳や登記簿をコピーしてそれを財産目録にしたりすることができるようになります。なお、財産目録をこのようにして作成したとしても、各ページに署名捺印をすることで偽造を防止することができます。

困ったら当事務所にご相談ください

最高裁判所が民法900条4号但書を違憲無効としたことで、非嫡出子(婚外子)が嫡出子と同じ法的立場で相続手続に関与することができるようになりました。これを受け、今回の法改正は、もっぱら遺された配偶者を保護するための諸制度の新設が中心となっています。
しかし、制度が新設されたとしても、利用者の側でそれを有効に活用しなければ意味はありません。当事務所は初回30分の法律相談を無料とさせていただいておりますので、相続手続でお困りの際はご遠慮なくご相談のご予約のお電話をいただければ幸いです。