遺言書の作成を弁護士に依頼するメリット

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

遺言書を作成しようと考えたとき、自分で作成すべきなのか、あるいは弁護士その他の専門家に相談ないし依頼すべきなのかについて、判断に困ることがあるかもしれません。
そこで、今回は、遺言書の作成を弁護士に依頼するメリットについてご説明いたします。

遺言書を自分で作成するのはどうか?

遺言書を自分で作成する最大のメリットは、お金がかからないという点です。弁護士に依頼すると、遺言の内容や遺産の金額にもよりますが、おおむね10万円程度の弁護士費用がかかります(公正証書遺言にしようと思えば、公証人に対する報酬として更におおむね10万円程度の費用がかかります)。
これに対し、自分で遺言を作成すればお金は一切かかりません。しかし、遺言には要式性といって厳格な決まり事があり、その決まり事を1つでも間違ってしまうと、せっかく作成した遺言は無効となってしまいます。
そのため、遺留分侵害額請求権のない兄弟姉妹の相続分を奪うため、「私の全ての財産は、妻である〇〇に相続させる。」というような簡単な遺言を作成する場合を除き、自分で作成すべきではありません。
また、簡単な遺言を自分で作成する場合でも、完成したときにはその遺言を持参して弁護士に相談し、有効かどうかを弁護士に確認してもらうべきです。

行政書士に依頼するのはどうか?

遺言書作成を行政書士に相談する場合には問題点があります。
まず、行政書士はきわめて限定された範囲内でしか法律相談を受けることしかできません。
なぜなら、弁護士法72条によって法律相談は弁護士の独占業務とされており、弁護士以外の者(弁護士以外の者には行政書士を含みます)が法律相談をすると刑事罰が科せられる犯罪行為になる可能性があるのです。
法律相談の目的は、依頼者から事情を聞いて事実関係を整理し、その事実関係に法律を適用したときの結果を想定し、依頼者にとって最善の解決策を提案することです。法律上の紛争は最終的には裁判所によって解決されることから、裁判になったときに裁判官がどのような思考方法でその事件をとらえるかを予想し、それを踏まえた解決策を事前に考えておくことも極めて重要です。
しかし、行政書士は、対応できる法律相談内容に制限があります。また、行政書士は、裁判官がどのような思考方法をするかについても分かりません。行政書士にできるのは、相続全般に関する一般的な説明だけであり、どのような内容の遺言にするのかといった個別具体的な相談に応じることはできないのです。
つまり、行政書士は、遺言書の原稿を作成することはできますが、その際に遺言の内容を依頼者と検討することはできませんので(これをすると弁護士法72条に違反します)、依頼者から伝えられた内容の遺言書を代書することしかできません。

司法書士に依頼するのはどうか?

司法書士は、行政書士とは異なり、所定の研修を受け法務大臣の認定を得ることを条件として、簡易裁判所における訴訟手続の対象となる紛争についての法律相談を受けることができます。しかし、相続事件は家庭裁判所の管轄ですので、司法書士は相続事件に関する法律相談を受けることはできません。
これに対し、弁護士は、遺言書を作成する際、遺言者の死後に相続人から遺留分侵害額請求訴訟や遺言無効確認訴訟が提起されることまで想定し、遺言者の遺志が最大限実現できるような内容の遺言書を作成しようと考えます。しかし、司法書士には遺留分侵害額や遺言の無効を請求されて法廷で争った経験がありませんので、これらを想定した遺言書を作成することはできません。

遺言書を作成するときは弁護士に相談しよう

遺言は極めて厳格な要式性が求められているため、法律専門家の助けを借りずに全て自作することは避けるべきです。遺言者の死後に要式性を理由に遺言が無効になると、遺言に基づいた遺産分割を行うことができなくなってしまいます。その結果、全ての相続人が参加する遺産分割手続をしなければならなくなります。そして、遺産分割手続においては、全ての相続人は原則として法定相続分に基づいて遺産を相続することになるため、特定の相続人に対して法定相続分を超えた遺産を相続させることはできなくなってしまいます。
また、遺言で言及し忘れた相続財産があると、その財産は遺産分割手続の対象になってしまいます。そうなると、遺言でより多額の相続財産を相続させたかった相続人は特別受益者となり、遺言で言及し忘れた相続財産の遺産分割を受けることができなくなってしまいます。
さらに、特定の相続人に法定相続分を超えた財産を生前贈与していたり、遺言によってより多額の遺産を取得させたりしたときは、遺言の中で持ち戻し免除の意思表示をしておくべきです。
そして、最も重要なのは、遺産分けに関して相続人間で差をつけたのであれば、差をつけた理由について、差別的取り扱いを受けた相続人が納得するような合理的な説明を考え、遺言の中で明記しておくべきだということです。
このように、遺言書を作成する際に弁護士に依頼することで、単なる代書ではなく、遺言者が本当に実現したかった思いを形に残し、遺言者の死後に相続人が無益に争うことを防止するための一助となることでしょう。
当事務所では初回の法律相談料はいただいておりません。弁護士に依頼するかどうかを決める前に、まずは無料相談を受けて、気になっているお悩みを弁護士にご相談ください。
法的手続の全ての段階で依頼者に寄り添うことができるのは、弁護士だけです。皆様からのご予約のお電話をお待ちしております。