相続放棄の撤回

相続人が相続放棄の申述をし、家庭裁判所が受理審判をすると、相続放棄の法的効果は確定的に発生し、原則として撤回することはできません。今回は、相続放棄の撤回が許されない理由や取消しができる場合についてご説明いたします。 

相続放棄の撤回が許されない理由

被相続人が死亡すると、その瞬間に相続が開始され、被相続人の一身に専属する権利義務を除く一切の権利義務が法律上当然に相続人に帰属することになります。しかし、民法は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制せず、単純承認をするほかにも、承継した相続財産の限度で責任を負う限定承認や全ての権利義務の承継をしないで相続放棄をする権利を認めています。ただし、限定承認や相続放棄は他の相続人や相続債権者の権利行使に影響することから、民法は、限定承認や相続放棄ができる期間(熟慮期間)を限定し(原則として被相続人の死後3か月以内)、限定承認や相続放棄がいったんなされたときは、仮にまだ熟慮期間の範囲内であったとしても撤回を許さないこととしました。相続放棄が要式行為とされ、家庭裁判所に申述し、その受理審判によってはじめて効力が発生する理由についても、厳格な手続を定めることで安易な気持ちで相続放棄をすることを阻止し、相続人に対し、相続放棄をするかどうかについて慎重に判断させるためであるといわれています。

申述の取下げは可能です

相続放棄の撤回は許されませんが、その法的効果は受理審判がなされた時点で発生することから、家庭裁判所に申述書を提出した後、受理審判がなされるまでの間は、相続放棄の申述を取り下げることができます。しかし、取り下げることができるのは、あくまで相続放棄の申述ですので、受理審判がなされてしまうと取り下げることができません。そこで、相続放棄の申述の取下げを希望するときは、直ちに家庭裁判所に電話連絡し、「これからすぐに家庭裁判所に行って申述を取り下げますので、受理審判はしないでください」と頼むべきです。

ただし、申述書の提出後、数日から1週間程度で受理審判がなされるときもあります。とはいえ、裁判官が常駐していない家裁出張所や支部であれば、裁判官が出勤するまで決済できず、常駐支部よりも受理審判までの時間を要するときもありますので、相続放棄の申述の取下げを希望するときは、ダメもとで直ちに家庭裁判所に電話連絡してみるべきです。ただし、相続放棄の申述を取り下げた時点で既に3か月の熟慮期間が徒過しているときは、思い直して再度の相続放棄の申述をしようとしても、熟慮期間の徒過を理由に受理されず却下される可能性があります。

相続放棄を取り消すことができる場合とは?

相続放棄は意思表示の一種ですので、民法の規定によって意思表示を取り消すことができる場合には相続放棄についても取り消すことができます。その場合は、家庭裁判所に申述し、受理審判がなされることによって取消しの法的効力が発生することになります。相続放棄の取消しが認められる場合は、①未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄をしたとき、②被後見人が相続放棄をしたとき、③被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄をしたとき、④詐欺または強迫によって相続放棄をしたとき、⑤後見監督人がいるケースで、後見人が後見監督人の同意を得ずに被後見人を法定代理して相続放棄をしたとき、⑥後見監督人がいるケースで、後見人が後見監督人の同意を得ずに未成年者の相続放棄に同意し、未成年者が相続放棄をしたときです。ただし、これらの取消原因があるときであっても、追認をすることができるときから6か月以内に取消権を行使しなければ、取消権は時効消滅します。また、相続放棄をしたときから10年以内に取消権を行使しなければ、やはり取消権は消滅します。なお、一般の法律行為の時効期間は、追認をすることができるときから5年、行為時より20年ですので、相続放棄の取消権は短期消滅時効が定められていることになります。

なお、相続放棄が詐欺取消されたとき、相続放棄の申述から詐欺取消までの間に善意の第三者が介在するケースでは、相続放棄を取り消したとしても善意の第三者に対抗することはできないものと解釈されています。また、相続放棄後、相続財産の全部または一部を隠匿したり、私に消費したりするなどの背信的行為をすると、相続放棄の効力は失われ、単純承認したものとみなされます。そのため、このような場合には、既に単純承認してしまっていることから、相続放棄の取消原因があったとしても相続放棄を取り消すことはできません。

相続放棄を取り消す方法

相続放棄の取消しは、相続開始地の家庭裁判所に対し、「取消相続放棄の取消申述書」を提出する形で行います。家庭裁判所は、受理書の記載事項に基づいて取消しを認めるべきかどうかを判断し、取消原因があると判断したときは受理審判をします。なお、取消原因の不存在を理由として却下されたときは、申述人は、高等裁判所に対し、即時抗告の申立てをすることができます。相続放棄の取消しは、受理審判によって初めて効力が発生することになりますので、相続放棄をした相続人は、取消しの受理審判がなされるまでは自らが相続人であるとして遺産分割協議等に参加することはできません。

困ったら弁護士に相談を

相続放棄を行った後、それを撤回することは非常に難しいと考えるべきです。なぜなら、既に行った相続放棄を前提として、他の相続人は遺産分割手続を進行させ、相続債権者は相続債権を行使しているからです。相続放棄の取消しは、相続放棄によって形成された法律関係を覆すものであり、法的安定性を害することになります。そのため、相続放棄の取消しの申述を受けた家庭裁判所としても、取消原因の存在について厳しい目で審査することになります。そこで、相続放棄の取消しを希望するときは、弁護士に依頼して入念な準備をして申述書を作成すべきです。当事務所は初回の法律相談料をいただいておりませんので、よろしければ当事務所にご相談いただき、弁護士を依頼して相続放棄の取消しの申述をすべきかどうかについてご検討いただく際の判断材料にしていただければ幸いです。