遺産分割の調停や審判を有利に進める方法

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

相続人全員の合意による遺産分割協議が成立しないときは、家庭裁判所に対し、遺産分割を求めることになります。そこで、これから家庭裁判所における遺産分割手続を有利に進める方法についてご説明いたします。

遺産分割調停と遺産分割審判の関係

家庭裁判所に対して遺産分割を求める際は、通常、当事者間の協議による合意を目指す遺産分割調停の申立てをします。審判前の保全処分を求める必要があるときなどは、いきなり遺産分割審判の申立てをすることもありますが、通常は、審判前の保全処分に関する判断の後、本体の遺産分割については調停に付す旨の決定がなされますので、実務上は、遺産分割調停が先行し、遺産分割調停が成立しなかったときに遺産分割審判に移行するという関係になります。

遺産分割調停とは?

遺産分割調停は、裁判官1名と調停委員2名から構成される「調停委員会」が主導します。
相続人の1人ないし数人が申立人となって、家庭裁判所に対して遺産分割調停の申し立てをすると、家庭裁判所は、担当裁判官を決め、担当裁判官は2名の調停委員を選任して調停委員会を発足させます。そして、家庭裁判所は、調停期日を決め、申立人と相手方(申立人ではない全ての法定相続人が相手方になります)に対し、調停期日を通知します。
遺産分割調停は、裁判官を除く2人の調停委員が中心となって協議を進行さ,裁判官は調停成立ないし不成立のときにだけ来ることが通常です。なお、調停委員は、弁護士、民生委員、元教員等の有識者の中から裁判所によって任命された民間の人達です。
調停委員は、申立書を事前に読み込み、当事者の主張と争点の把握に努めます。初回期日には、通常、最初に申立人を調停室に呼んで事情を聞き、次に相手方を調停室に呼んで事情を聞く方式が採用されます。申立人と相手方は、待合室も別々の離れたところに設置されており、家庭裁判所の庁舎内で出会うことがないように配慮されています。
調停委員は、双方の当事者から交互に事情を聴取し、当事者の主張と争点を確認した後、不明確な点があれば、次回期日までに報告するように指示し、当事者双方の意見を聞いて次回期日(通常は1か月に1回の頻度で指定されます)を決めます。
要するに、調停になると、1か月に1度、家庭裁判所に当事者が集まって、調停委員に呼ばれるまで控室で待機し、呼ばれたら調停室に入って口頭で事情を説明して控室に戻り、最後に次回期日を決めて帰宅するということを繰り返すことになります。その期間は、半年から1年ほどである場合が多いですが、場合によっては数年に及ぶ場合もあります。

調停が不成立になると審判に自動移行します

調停のイメージは、遺産分割協議の場に調停委員が入るようなものです。遺産分割協議の参加者は相続人だけですが、遺産分割調停は調停委員が中心となって協議を進めるため、各相続人の主張や争点が明確化され、整理されます。また、調停委員は、遺産分割について利害関係のない公正中立な第三者としての立場で調停に関与するため、調停委員の意見が解決基準となって各相続人の納得が得られやすくなります。
しかし、遺産分割調停はあくまで裁判所を通じた話し合いであることから、全ての法定相続人が合意しなければ調停は成立しません。逆に言えば、相続人の中で1人でも反対する人がいれば、調停は成立しないことになります。
そのようなとき、調停委員は、相続人と遺産の範囲を確定させた上で当事者の主張と争点を整理し、裁判官にこれまでの経緯を説明し、調停不成立にするかどうかの判断を裁判官にゆだねます。
裁判官が「これ以上の調停期日を重ねても調停では解決しない」と判断すると、裁判官が調停室に現れ、「調停は不成立にします」と宣言し、調停は終了します。その後、遺産分割手続は、自動的に遺産分割審判に移行します。

遺産分割審判とは?

遺産分割審判は、民事裁判のようなイメージで考えてください。申立人(原告)と相手方(被告)が主張立証を尽くし、審判官(裁判官)が審判(判決)を言い渡します。
両当事者は、審判書(判決書)を見て、不服があれば高等裁判所に抗告(控訴)します。高等裁判所は、原審判(原判決)の全部または一部が間違っていると考えれば、原審判(原判決)の全部または一部を取り消して自ら審判(判決)をします。高等裁判所の判断に不服があれば、最高裁判所に不服申し立てをすることができますが、民事事件であっても家事事件であっても、最高裁判所は憲法違反や重大な法律問題が関係しない限り不服申立てを受理することはなく、事実上、高等裁判所の判断が終局的な判断となって当事者を法的に拘束することになります。

困ったときは弁護士に相談を

当事者間のみでの遺産分割協議が進まない場合、専門家である弁護士が介入することで、当事者の主張や争点が整理され、遺産分割協議がスムーズに進むことが多くあります。また、裁判外での協議が進まない場合であっても、それまでの協議の内容を踏まえて直ちに遺産分割調停の申立てを行うことができます。
遺産分割調停に移行すれば、調停委員が間に入って法律に沿った解決策を相手方に提示してくれます。相手方としても、対立当事者からの提案と調停委員からの提案では、同じ内容でも受ける印象が全く違いますので、調停の段階で遺産分割協議がまとまる可能性も高まります。
しかし、そのためには、こちら側も法的に無理な主張をすることなく、相手方に対し、当初から一貫して法的にフェアな主張をすることが重要です。なぜなら、調停に移行することになったとしても、相手方は、その時点でこちらの主張が法的にフェアなものだったかどうかを知ることになるからです。もし相手方にとって法的にアンフェアな主張を最初にしてしまうと、相手方はこちらに不信感を抱くようになり、話し合いでの解決の可能性が絶たれてしまうリスクがあります。
そのため、できるだけ早期に弁護士に相談し、法的に許容され得る複数の選択肢の中で、こちらにとって最大限有利な解決策を知っておく必要があります。当事務所では初回相談は30分無料ですので、相続関係でお困りの際はぜひご相談ください。