遺産が使い込まれていたときの対処方法

ある相続人によって遺産が使い込まれていたとき、他の相続人はどのように対処すればよいのでしょうか。遺産の使い込みの時期が、被相続人が死亡する前のケースと死亡した後のケースで場合を分けて検討してみます。

被相続人が死亡する前の遺産の使い込み

被相続人の生前に遺産が使い込まれていたとき、被相続人がその使い込みに同意していたかどうかによって以後の処理方法が異なります。

被相続人がその使い込みに同意していたとき、その使い込みは生前贈与となりますので、特別受益として相続財産に持ち戻して相続分を算定することになります。

これに対し、被相続人がその使い込みに同意してなかったとき、その使い込みは被相続人との関係で不当利得ないし不法行為となります。不当利得返還請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権は金銭債権であり、法定相続分に応じて当然に分割されますので、他の相続人は、自らの法定相続分に相当する金銭を請求することになります(相続人が被相続人の子4人であり、子Aが遺産のうち4000万円を使い込んだとき、子BCDは、子Aに対し、各自1000万円ずつ請求することになります)。

被相続人が死亡した後の遺産の使い込み~不動産

相続人の1人が被相続人名義の不動産を勝手に自己名義にしたケースで考えてみます。

相続人が被相続人の子4名であり、子Aが子BCDに無断で子Aの単独名義の登記を行ったケースで考えてみましょう。

このとき、子BCDは、子Aに対し、「ABCDの持分を各4分の1とする所有権移転登記への更正登記手続」を求めることになります。求める登記手続が抹消登記手続でないのは、A単独名義の登記であっても、Aの持分に関する限り実態に即しており無効とは言えないからです。

なお、子AがA単独名義にした後、金融機関から融資を受けて抵当権を設定するなどして登記上の利害関係を有する第三者がいるときは、第三者に対し、更正登記をすることについての承諾請求訴訟を提起しなければなりません。

つぎに、子AがA単独名義にした後、第三者Eに売却し、第三者E名義になっているとき、子BCDはどうしたらよいでしょうか。
子Aは、子Aの持分については権利者であっても子BCDの持分については無権利者ですから、子Aから譲渡された第三者Eも子BCDの持分については無権利者となります。第三者Eは登記を具備していますが、登記には公信力がないことから、権利者からの譲渡分である子Aの持分についての権利を取得することはできても、無権利者からの譲渡分である子BCDの持分についての権利を取得することはできません。

結局のところ、子BCDは、第三者Eに対し、「BCDEの持分を各4分の1とする真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記手続」を求めることになります。

被相続人が死亡した後の遺産の使い込み~預貯金の無断出金や相続財産の無断売却

ある相続人が相続財産中の預貯金を無断出金したり、株式や動産を無断売却したりしたケースを検討してみます。

このとき、遺産分割をする前に無断出金された預貯金や無断売却された株式や動産の代金は、遺産分割の対象とはなりません。なぜなら、遺産分割の対象となる相続財産は、相続開始時に存在した財産ではなく、実際に遺産分割がなされた時点で現存する財産だからです(なお、不動産については、登記に公信力がないことから、無権利者から譲り受けた第三者は保護されないのに対し、株式や動産については、取引の安全の見地から、通常は譲受人がそれらの所有権を善意取得しますので、相続財産は売却代金に形を変えてしまっています)。

したがって、上のケース(子Aが4000万円の預貯金ないし売却代金を使い込んだケース)で言えば、子BCDは、子Aに対し、各自1000万円ずつの損害賠償請求をすることになります。

改正法による手当て

しかし、子BCDが子Aに対して各自1000万円ずつの損害賠償請求をしたのでは、子BCDの保護を図れないときがあります。具体的には、子Aに特別受益があるときです。

子Aが被相続人から5000万円の生前贈与を受け、被相続人の死亡時の相続財産が5000万円だったとします。子Aは、遺産分割前に5000万円のうち4000万円を着服してしまいました。

もし子Aに対する生前贈与がなければ、相続財産は1億円だったはずですので、子ABCDは2500万円ずつ相続していたはずでした。しかし、子Aは5000万円の生前贈与という特別受益を得ていますので、相続財産5000万円は子BCDの3人で頭割りし、子BCDが各自1666円ずつ相続していたはずです。

しかし、実際は、子Aが相続財産5000万円のうち4000万円を着服してしまったので、残りは1000万円しかありません。子BCDは、子Aに対し、各自の法定相続分(4分の1)に応じた損害賠償請求をすることができるだけですから、子Aから取り戻せるのは各自1000万円ずつだけです。そうすると、子BCDが取得できる財産は、子Aから取り戻した各自1000万円のほか、相続財産の残り1000万円を子BCDで頭割りした333万円の合計1333万円となります。

このように、子Aが相続財産を着服しなければ子BCDは各自1666万円ずつ取得できたのに、子Aが相続財産を着服したことで、子BCDが取得できる財産は各自1333万円ずつに減ることになります。このような結果になる理由は、民事裁判では特別受益を考慮した遺産全体の衡平な分配を諦めるしかないからです。

現行法ではどうすることもできなかったわけですが、2019年7月1日に施行された改正法で解決されました。すなわち、改正法は、処分者(上記の例では子A)以外の相続人全員(上記の例では子BCD)の同意を条件として、処分された財産を遺産に組み戻して遺産分割の対象に含めることを認め、不当な出金や財産処分がなかった場合と同じ結果を実現することができるようになりました。

困ったら弁護士相談を

このように、遺産が使い込まれていたときの対処方法は非常に複雑です。ご自身で悩む前に弁護士に相談し、解決の糸口を見つけることをお勧めします。当事務所の初回相談料は無料ですので、相続関係でお困りの際は当事務所までご連絡ください。