相続人を調査する方法

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

遺産分割をするためには、相続人と相続財産を漏れなく調査し、全ての相続人と相続財産を対象にしなければなりません。今回は相続人の調査の方法についてご説明いたします。

死亡日によって相続人が異なります

被相続人が昭和56年1月1日以降に死亡したときは、現行の民法が適用されます。しかし、相続人がそれ以前に死亡したときは、現行の民法が適用されません。とりわけ昭和22年5月2日以前の相続については、旧民法が適用されます。旧民法は戸主に関しては家督相続が発生し、戸主以外の家族に関しては遺産相続が発生するものと規定しています。なお、家督相続は、死亡のほか隠居や入夫婚姻によっても発生しますので、簡単ではありません。その後、昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までに相続が開始したケースでは応急措置法が適用され、昭和23年1月1日から昭和37年6月30日まで、あるいは昭和37年7月1日から昭和55年12月31日までに相続が発生したケースでは、その時々の民法(現行民法の改正前のもの)が適用されます。昭和56年1月1日といえば今から35年以上も昔のことですから、今更それよりも前の相続が問題になることがあるのだろうかと疑問に思われるかもしれません。しかし、被相続人が固定資産税を支払っている土地の登記簿(正式名称は「土地全部事項証明書」です)を入手してみたところ、被相続人の祖父や曽祖父名義のままだったということがしばしばあります。このとき、土地の時効取得を理由とする土地所有権の移転登記手続請求訴訟を提起するにしろ別の方法をとるにせよ、土地の名義人の全ての法定相続人と各法定相続人の法定相続分を計算して確定しておく必要があり、土地の名義人の死亡日が昭和55年12月31日以前であると改正前の民法が適用されることから、非常に面倒なことになるわけです。

戸籍を入手する

被相続人の相続人調査の基本は、戸籍調査です。被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を漏れなく入手しなければなりません。具体的には、被相続人の本籍地の市区町村役場で最新の戸籍謄本(除斥謄本)を入手し、それを見て1つ前の戸籍があればそれを入手し、更にそれを見てその1つ前の戸籍があればそれを入手しというように、戸籍を入手したらその直前の戸籍を順繰りに入手していき、最終的には被相続人の出生時の戸籍までたどり着き、それら全ての戸籍を入手する必要があります。昔の戸籍の中には手書きのものもあり、その中には判読困難な字体で書かれたものもあったりしますので、戸籍の記載内容を理解するだけでも大変です。このように、戸籍調査の出発地は本籍地の市区町村となります。本籍地が分からないときは、被相続人の最後の住所地で被相続人の住民票を入手して本籍欄を見ることで被相続人の本籍地を確認することができます。また、戸籍を管理する市区町村に直接出向かなくても、郵送で戸籍を入手することができます。しかし、手数料として定額小為替を同封したり(多めに入れておくと定額小為替でお釣りを返してくれます)、本人確認資料を同封したりする必要があり、非常に手間がかかります。

そこで、遠隔地の戸籍謄本を入手しなければならないときは、相続人調査の段階から弁護士に依頼してしまうのも一つの方法です。また、遺産分割で紛争が生じるかどうかが分からず、弁護士に依頼するのがためらわれるときは、後述する法定相続情報証明の取得について司法書士に依頼するのも非常に有効な方法と言えます。インターネットで検索すれば、法定相続情報証明の作成を数万円程度の安価で請け負う司法書士を簡単に探すことができるでしょう。

法定相続情報証明を作成しよう

法定相続情報証明とは、最寄りの法務局に相続関係説明図とそれを疎明する全ての戸籍謄本を提出すると、登記官が間違いないかどうかを確認し、間違いないときは登記官の認証文言の入った法定相続情報一覧図を枚数の制限なく無料で交付してもらえるという制度です。これまでは金融機関で相続手続をするときにも全ての戸籍謄本を窓口に持参して法定相続情報の確認を受ける必要があったところ、この法定相続情報一覧図を利用すれば、1枚の紙を窓口に提出するだけで済むという画期的なサービスとなります。前述したとおり、相続事件を弁護士に依頼するのでなければ、相続人調査を兼ねてこの法定相続情報一覧図の作成だけを司法書士に依頼するのも一つの方法です。法定相続情報一覧図を作成する過程で司法書士が戸籍謄本を取ってくれますので、戸籍謄本集めという面倒な作業から解放されることができます。

困ったら弁護士に相談を

相続開始が最近のものであれば、相続人の調査も比較的簡単に済みます。しかし、不動産の登記名義をずっと変更しないまま代替わりが続いたときなどは、名義人の全ての法定相続人を調査する必要があります。法定相続人全員が日本に居ればまだしも、外国に居住しているときは連絡を取るだけでも困難ですし、裁判を起こす際に裁判書類を送るだけでも半年以上かかってしまう国もあります。そこで、複雑な相続人調査が予想され、相続人調査後の遺産分割協議も整いそうにないときは、最初から弁護士に依頼し、相続人調査の段階から代わりにしてもらうことも十分に検討に値します。当事務所は初回の法律相談料は無料とさせていただいておりますので、お気兼ねなくご相談ください。