遺産分割後の名義変更の方法

代表社員弁護士 伊藤 弘好 (いとう ひろよし)

遺産分割協議・調停・審判によって各相続人が相続する遺産が確定した後は、各相続人はそれぞれが取得した遺産の名義変更をしなければなりません。今回は、取得した遺産の種類ごとの名義変更の方法についてご説明いたします。

不動産の名義変更手続

不動産の登記簿を確認し、共同相続登記がなされているかどうかを確認します。不動産に共同相続登記がなされていないときは、遺産分割によってその不動産を取得した相続人が単独で相続を原因とする所有権登記の移転登記手続をすることができます。これに対し、不動産に共同相続登記がなされているときは、遺産分割によって不動産を取得した相続人は単独で所有権登記の移転登記手続をすることができません。なぜなら、この場合、遺産分割によって不動産を取得した相続人が登記権利者となり、その他の相続人が登記義務者となることから、両者が共同して共有持分の移転登記手続をする必要があるからです(遺産分割には遡及効がありますが、この場合の登記は更正登記ではなく移転登記となります。また、所有権移転の原因となる日付は相続開始日ではなく、遺産分割や遺産分割調停が成立した日となります)。

動産の名義変更手続

動産の中でも自動車や船舶には登録制度があります。登録制度がある自動車、船舶は登録をしなければ運行ないし運航することができず、その所有権を第三者に対抗することができませんので(道路運送車両法4条、小型船舶登録法3条等)、必ず登録をしなければなりません。なお、登録手続の具体的な方法については、管轄する役所(国土交通省地方運輸局、軽自動車検査協会、市役所、国土交通省地方運輸管理部、日本小型船舶検査機構など)に確認する必要があります。これに対し、登録制度がない動産については、引渡しを受けなければその所有権を第三者に対抗することができません。したがって、名義変更手続の必要がない動産であっても、速やかに引渡しを受けておくべきです。

預貯金の名義変更手続

預貯金について、最高裁判所は、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されて各相続人に移転すると解釈してきましたが、最近、判例変更し、遺産分割の対象となるとの判断を示しました。判例変更がなされる前は、各相続人は、遺産分割が確定する前の段階であっても、金融機関に対し、その法定相続分に応じた払戻しを請求することができました(銀行実務上は、被相続人の死亡を知ったときは直ちに預金口座を凍結して全相続人の同意書がなければ払戻しには応じませんので、各相続人が遺産分割確定前に払戻しを受けたいときは、全相続人が署名し実印を押した払戻請求書を提出するか、金融機関を被告として裁判を起こさなければなりませんでした)。しかし、判例変更後は、各相続人は、遺産分割を確定させた後でなければ払戻しを受けることができなくなりました(なお、2019年7月1日に施行される「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」によって、一定額までの預金については遺産分割前であっても払戻しが認められることになります)。

なお、預貯金の払戻しや名義変更手続に必要な書類は各金融機関の支店窓口に備え付けられています。各金融機関が求める所定の書類を素直に提出したほうが手続が円滑に進みますので、よほどの事情がない限りは各金融機関の求める手続に合わせるべきです。

株式や投資信託の名義変更手続

最も簡便な手続方法は、被相続人の口座のある証券会社に相続人自身の口座を開設し、被相続人の口座から相続人の口座に移管をしてもらうことです。もし相続人が相続した株式を他社で管理運用したければ、通常の移管手続によって他社に移管すればよいでしょう。

ゴルフ会員権の名義変更手続

最初になすべきことは、会員規約を確認することです。ゴルフ場によっては、ゴルフ会員権の相続を認めないところもあるからです。また、会員規約によって相続を認めるゴルフ場であったとしても、無条件ではなく、理事会による入会資格審査等に合格しなければならないでしょう。ゴルフ会員権の相続が認められないときは、ゴルフ会員権を所有していたとしても会員となることができませんので、売却することになります。

賃貸不動産の名義変更手続

まず、被相続人が賃借人であり、相続人が借地権(借地上にある被相続人名義の建物の所有権)や借家権を遺産分割によって取得したときは、借地権ないし借家権の名義変更について賃貸人の承諾は不要です。これに対し、借地権ないし借家権を特定遺贈によって取得したときは、借地権ないし借家権の名義変更について賃貸人の承諾が必要となります。なお、借地権の特定遺贈がなされ、賃貸人の承諾が得られないときは、承諾に代わる許可の裁判を求めることができますが、借家権にはこのような制度がありません。これらとは逆に、被相続人が賃貸人であるときは、賃貸目的物の所有権登記の変更手続を行った上で、賃借人に対して賃貸人の地位が移転したことを通知しなければなりません。

これらのケースでは、本来は賃貸借契約書を作成し直す必要はありませんが、当事者も変わったことですから、改めて賃貸借契約書を締結し、以後の良好な関係を互いに約束したほうがよいでしょう。

法定相続情報証明について

名義変更手続をする際は、自身が相続人であることを示す書類を用意する必要があります。自身が相続人であることを示す書類とは戸籍謄本のことですが、それぞれの窓口に戸籍の束を持参して確認を受けるのは手間ですし、なにより同時に複数の窓口で手続きをすることができません。そこで、最寄りの法務局の法定相続情報証明制度を利用すれば、何度でも無料で登記官の認証文言の入った法定相続情報一覧図の発行を受けることができます。戸籍の束の代わりにこれを1枚提出するだけで済み、とても便利です。

困ったら弁護士に相談を

相続財産の名義変更手続は大変ですが、その前提となる遺産協議書の文言が不正確なものであると、名義変更手続をすることができなってしまいます。遺産分割協議の成立が見込まれるときは、事前に弁護士の相談を受けるべきです。当事務所の初回の法律相談料は無料ですので、お気兼ねなくご相談ください。