遺産分割の対象になるもの、ならないもの
被相続人が死亡時に所有していた財産のうち、相続財産になるものとならないものがあります。相続財産になるものは遺産分割の対象になりますが、相続財産にならないものは遺産分割の対象にはならず、被相続人の死亡によって当然に特定の相続人が取得することになります。
この記事では遺産分割の対象になるものとならないものについて、詳しくご説明します。
被相続人の権利義務は原則として遺産分割の対象になる
民法896条は「相続人は、被相続人の一身に専属する権利を除き、相続開始の時から被相続人の一切の権利義務を承継する」と規定しています。そのため、被相続人の権利義務は、原則として相続財産となり、遺産分割の対象になります。ただし、これはあくまでも原則であり、いくつかの例外があります。
現金と預貯金
従来の伝統的な考え方は、現金は遺産分割の対象になるものの、預貯金は遺産分割の対象にならず、相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割され、各相続人は、その法定相続分に応じて、金融機関に対して払い戻しを請求することができるというものでした。しかし、最高裁判所は、平成28年12月19日、それまでの判例を変更して、預貯金は遺産分割の対象となると判断しました。したがって、現時点では、現金も預貯金も相続財産となり、遺産分割の対象となります。
賃借権
使用借権は借主の死亡によって消滅しますが、賃借権は借主の死亡によっては消滅せず、原則として遺産分割の対象となります。
生命保険金、死亡退職金
相続財産ではないため、原則として遺産分割の対象とはならず、受給権者の固有の財産となります。
例えば、生命保険について、保険契約書で相続人のうち特定の1人が受取人に指定されたときは、受取人として指定された特定の相続人だけが保険金を全額取得することができます。この場合、最高裁判所は、受け取った保険金は原則として特別受益にはならないと判断しています。
これに対し、生命保険について、受取人が指定されていなかったり、受取人欄に「相続人」とだけ記載されていたりするときは、保険金は、各相続人の法定相続分に応じて当然に分割され、各相続人自身の財産になります。
したがって、保険金の受取人は、遺産分割の成立を待たず、保険会社に対して保険金を直接に請求することができることになります。
もっとも、生命保険について、被相続人自身が受取人として指定されている場合には、相続財産になると考えられており、遺産分割の対象となります。
遺族年金
遺族年金は、遺族の生活保障を目的とするものですので、相続財産ではなく、遺産分割の対象とはなりません。受給権者の固有の財産となります。
会員権
会員権の中で財産的価値が高いもののひとつがゴルフ会員権であるため、ゴルフ会員権をめぐって多数の裁判例が存在します。
結論のみ述べると、会員規約で相続を認めているときは会員権自体が相続財産となりますが、会員規約で相続を禁止しているときは、会員権自体は消滅し、預託金返還請求権等が相続財産となります。また、最高裁判所は、会員規約で相続に関する規定がない場合、会員規約で会員権の譲渡を認めているときは、会員権自体が相続財産となると判断しています。
祭祀財産、遺体・遺骨
祭祀財産とは、系譜(系図など)、祭具(位牌、仏壇など)、墳墓(墓、墓地など)のことです。
これら祭祀財産は、相続財産ではありません。そのため、祭祀主宰者(通常は喪主)が単独で承継します。祭祀承継者は、第1に、被相続人の指定があればそれによる、第2に、被相続人の指定がなければ慣習による、第3に、被相続人の指定も慣習もないときは家庭裁判所が審判で指定します。
なお、遺体や遺骨についても、相続財産ではありませんので、祭祀主宰者が単独でそれらの所有権を取得します。
葬式費用
葬式費用は、相続財産ではなく、遺産分割の対象にはなりません。葬式費用について紛争が生じたときは、原則として民事訴訟で解決されることになります。
ただし、葬式費用の実際の契約関係は、喪主が契約当事者となって葬儀場、僧侶、参列者の飲食代等の手配をすることから、葬儀費用は喪主が負担し、その代わりに参列者から受け取った香典も全て喪主が負担することが多いでしょう。
遺産から発生した収益、管理費用
遺産から発生した収益の具体例は賃料などであり、管理費用の具体例は修理費、税金、保険料などです。
これらは被相続人の死亡後に発生したものですので、相続財産とはならず、遺産分割の対象にはなりません。各相続人が相続分に応じて当然に分割されたものを取得することになります。
そのため、これらについて紛争が発生したときは、原則として民事訴訟で解決されることになります。
借金、保証債務
被相続人の借金や保証債務は、各相続人の法定相続分に応じて当然に分割され、各相続人自身の借金や保証債務となります。
なお、遺産分割協議において、特定の相続人を負担者とする旨を取り決めることはできます。しかし、これは相続人間の内部的な取り決めにすぎませんので、債権者(金融機関など)に対しては、遺産分割協議の内容を主張して支払いを拒むことはできません。
遺産分割で悩むときは、まずは弁護士相談を
このように、相続財産が遺産分割の対象になるかならないかという判断については、非常に難しいものです。
とりわけ重大な影響が生じるものは、借金の分担の取り決めです。長男に遺産を多く取得させる代わりに借金の返済も任せたところ、長男が借金の返済をせずに遺産を使い切って返済能力を失ったときは、遺産をもらっていない他の相続人が長男の代わりに、自らの法定相続分の範囲内において、借金を支払わなければならなくなります。
そこで、遺産分割協議をする前に少しでも疑問に思うところがあれば弁護士に相談し、その疑問点を解消しておくべきです。当事務所では、初回の30分の法律相談料は無料ですので、費用の心配をすることなく弁護士相談を受けることができます。皆様からのご予約のお電話をお待ちしております。