寄与分の基礎知識と計算方法
被相続人の生前に特別の寄与をして相続財産の維持増加に貢献した相続人には「寄与分」が認められます。
今回は、寄与分の基礎知識と計算方法についてご説明いたします。
寄与分とは?
寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたときの寄与の割合をいい、寄与分のある相続人がいるときは、まず相続財産から寄与分を差し引いて各相続人の相続分を算出計算し、その後、寄与分は特別の寄与をした相続人の相続分に寄与分を上乗せするというという方法で計算されます制度です。寄与分を主張できるのは相続人に限定され、相続放棄・欠格・廃除によって相続人たる資格を失った者は寄与分を主張行使することはできません。また、相続人の配偶者や子の寄与行為についても、相続人自身の寄与分として主張することができます。
具体例で考えてみましょう。例えば、被相続人の相続人が子ABC、相続財産が1億円、子Aの寄与分が1000万円であるとします。このとき、相続財産のうち1000万円は子Aがいなければ形成できなかったと言えますので(このように言えなければ、そもそも寄与分とは認められません)、1億円から寄与分1000万円を除いた9000万円を子ABCで頭割りします。そうすると、子ABCは各3000万円ずつ相続することになるわけですが、子Aは1000万円の寄与分が相続分に加算される結果、子Aは4000万円、子BCは各3000万円ずつを取得する結果となります。
特別の寄与とは?
寄与分が認められるためには、単なる寄与では足りず、特別の寄与といえるほどのものでなければなりません。民法904条の2は、特別の寄与について、①被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、②被相続人の療養育看護、③その他の方法の3種類のケースを列挙していますので、それぞれについて見ていきます。
①被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付とは?
被相続人が農業や商売をしており、相続人が家業の手伝いをしていたケースが典型例です。
まず、相続人が労務の提供をしていた場合は、人並みの給与をもらっていたかどうかが重要な判断基準となります。相続人が家業を手伝うことで、第三者を雇って給与を支払わずに済み、その分だけ相続財産が維持増加したという関係があれば、寄与分は認められるでしょう。
しかし、相続人が人並み以上の金銭的な待遇を得ていれば、相続人の寄与行為は対価を得てなされたものであり、それによって相続財産が維持増加したという関係は認められませんので、寄与分は認められません。
ここで「人並み以上」の待遇かどうかは、被相続人の家業と同種・同規模の事業において、相続人と同年代の者が得ている年間給与額を基準として判断されます。なお、相続人が人並み以上の待遇を得ていたときは、逆に貰いすぎの部分が特別受益と認定される可能性があります。
なお、被相続人と同居して家業に従事していた相続人が得ていた待遇が小遣い程度であったときは、その寄与分は、「被相続人死亡時の平均賃金×0.5×家業に従事していた年数」で計算されます(「0.5」は、被相続人にが負担していた生活費相当額を差し引くためです。また、学生時代に家業を手伝っていたとしても、通常のケースでは家業に従事していた年数には含まれません)。
つぎに、相続人が事業資金を提供していた場合は、出資の効果が相続開始時(被相続人死亡時)に残存していなければなりません。相続人が事業資金を無償援助した後、被相続人が事業に失敗して自己破産し、その後、資産形成に成功したケースでは、出資の効果は自己破産時に失われていますので、寄与分は認めらません。
相続人が事業資金を提供したことが寄与分と認められるときは、「資金提供時の金額×貨幣価値変動率」によって計算されますが、援助した金額の全額が寄与分として認められるわけではありません。
②被相続人の療養育看護とは?
これは、相続人が被相続人の療養育看護費を立て替えて施設に支払ったケースのほか、相続人自身が被相続人の面倒をみたケースがあります。
前者は、相続人が施設にお金を払ったおかげで被相続人は支払いを免れたという関係がありますので、通常は相続人が実際に支払った金額から自身の法定相続分相当額を差し引いた金額が寄与分として認められることになるでしょう(相続人が子ABCの3名であり、子Aが900万円の施設費を支払ったときは、子Aの寄与分は600万円になるという意味です)。
これに対し、後者は簡単にはいきません。
まず、相続人が被相続人を引き取ってお金を貰わずに生活の面倒を見ていたときは、寄与分額は「現実の負担額ないし生活保護基準による額×実際に扶養した年数」から自身の法定相続分相当額を差し引いた金額となります。これに対し、相続人が被相続人宅に同居して被相続人の面倒を見ていたケースでは、相続人は家賃相当額の支払を免れるという利益を得ていることから、寄与分が否定されるケースが多いでしょう。
また、単なる生活の面倒ではなく介護をしていた場合には、介護職従事者と同程度の介護内容であれば介護職従事者の給与相当額が寄与分として認められる方向に働き、介護職従事者の水準に達しない介護内容であれば親族としての当然の扶養義務の履行にすぎないとして寄与分が否定される方向に働きます。
③その他の方法とは?
具体的に問題となるのは、先行した相続で譲歩した者がいるとき、譲歩したことで今回の相続財産が増加したとして寄与分を主張することができるかどうかです。
遺産分割協議で譲歩する理由は多種多様ですから、基本的には先行した相続の内容は今回の相続の寄与分とはなりません。しかし、被相続人の妻が子に老後の面倒を見てもらうつもりで相続放棄をした後、子が先に死亡し、子の妻と共に子の財産を相続することになったケースでは、先行した夫の相続における遺産分割で譲歩したことが子の相続の寄与分として考慮されるときもあります。
困ったら弁護士相談を
寄与分が認められるかどうか、認められるとしていくらかは、非常に複雑な法律問題がからみます。お困りのときは、できるだけ早期に弁護士相談を受けることをご検討ください。
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